なしのつぶて

本や映画についての個人的な感想、それに関する雑談を綴ります。

ダレル・ウィート「ドント・スクリーム」

 

ドント・スクリーム [DVD]

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今日の映画

ダレル・ウィート 監督作品

「ドント・スクリーム」

カービー・ブリス・ブラントン 主演

 

 「ドント・スクリーム」は2016年に公開された、実際の事件を元にして制作されたというアメリカ映画。事件の内容を調べたが、2015年のカナダで起きた銃殺事件のことだそうだ。

 被害者は18歳の青年で、携帯電話の窃盗被害にあった。携帯電話を探すために追跡アプリで捜索したところ犯人に遭遇し、銃殺されたというものらしい。

 

 この映画はきっかけこそ「携帯電話を持っていかれて」「アプリを使用して探し」「犯人の家に辿り着く」ものだが、それに「監禁家族」の要素が加わっている。犯人の家族は「新しい家族」を迎え入れては監禁する、狂った人間たちだった、という設定だ。

 着想も要素も面白い。監禁家族の設定、昨今話題のSNSからターゲットを探すところも良い。ただ何が問題かといえば、やはり邦題の「ドント・スクリーム」ではないだろうか。

 

 最近、どうやら「Don't」をつけておけば大成功するのではないかという考えがあるらしい。Don't Scream(叫ぶな)なり、Don't Sleep(眠るな)なり。

 それはSNSを通しても公開前から話題だった、ドント・ブリーズがきっかけだったのではないかと言われている。Don't Breathe(息をするな)から始まり、原題を邦題に変える時に「Don't」をつけて、いわゆる「ドントシリーズ」と言われるくくりが作られた。

 だが、これは大きな問題だ。タイトルも映画の雰囲気も似ているとなれば比較されることは避けられない。そして、比較したうえで「面白い」と判断されるのはドント・スクリームではない。

 かく言う私も、ドント・ブリーズ(Don't Breathe)と似たタイトルのため、まあ似た作品なんだろうとあまり期待をせずに観た。

 

 オープニングは面白かったと思う。緊張感もあり、明るい音楽でInstagramを引っ張ってきて、主人公とその日常を簡単に紹介する。先程の殺伐としたものとは正反対な空気感が流れて、その奇妙な違和感が良かった。だがそこまでだ。ストーリーに入ってしまえば退屈だった。共感できない主人公(そもそも日本とアメリカの高校生という生き物の違いもあるのかもしれない)に、理由や動機がよく分からないまま進んでいくストーリー。

 半ばで、「あと半分しかないのにここまで引っ張って大丈夫?」と思ったが、やはり観客がいちばん知りたい重要な「動機」は何も描かれなかった。「他人を監禁してまで家族に固執する理由」「いつから始まった習慣なのか」そういったことに関しての説明は何もない。84分という短い時間にするために要素を削ってしまった結果だったのかもしれない。

 

 さて、話は変わるがドント・ブリーズはどうしても雰囲気ごと味わいたいと言う妹と映画館まで行き、終わったあとに酷く脱力したことを覚えている。

 もともと私はびっくりホラーが苦手な性質で、妹に引きずられるようにして朝から映画館に行ったのだ。

 「無理だと思ったら寝よう」なんて思いながら観た。(実際最も私が驚き椅子を揺らしたのは、制作会社のロゴマークが表示された瞬間だった)

 あれは、例えるならばまさに遊園地のお化け屋敷を歩くような映画だったような気がする。驚いたり叫ぶほどの衝撃は幸いなことになかったが、ただ、主人公たちと共に私も自然と息を殺した。映画館という環境も手伝ったのかもしれない。

 しかしあの映画については後半に明かされる事実の設定がよく出来ていて、動機も人物の異常性も、何もかも申し分なかったと思う。すべてを納得させるように巧妙に描かれている、とても良い映画だったと私は思っている。

 (私の恋人は、元海軍という設定といってもあまりにも常人離れした老人の姿にすっかり萎えて、まったく中身に入り込めなかったと言っていたが)

 

 ところで、SNSの使い方というのは人それぞれだと思う。無意識で自己顕示欲を満たすひともいれば、自己肯定感が欲しくて使うひともいる。誰か友人たちの様子を見るために、といわゆるROM専で使用するひともいるだろう。

 SNSが無くなっても死にはしない。友人たちに連絡をとろうと思えばいくらだって他に手段はある。けれど私たち現代人は、「他人の様子を知ることができて」「自分の近況を誰かに伝えられる」SNSに、いつの間にか依存している。

 

 社会が危険だからと保護したプライベートな部分、自分のプライバシーをさらけ出させるものがSNSだ。

 私も使い方について人のことはとやかく言えないが、特に誰でも見ることのできるコンテンツとして扱っているひとたちは自分の写真に気を配っておいた方がいいのかもしれない。最近は電信柱やマンホールで写真から住所を割り出せるし、家の前にわざと変わったもの(見つけた住人が明らかに違和感だと思うもの)を置いてSNSで拡散させ、アカウントと個人、住所すべてを結びつけて犯罪に応用するものもいるという。

 

 6月に入ってから、連日のように殺人事件のニュースがある。SNSがきっかけの犯罪率は毎年増加を続けている。自分には起こりえないこと、と思い込まないようにすべきだ。

 危険なこと、危険なひと、を判断するのはとても難しいが、それでもどうにかして自分の身を自分で守っていくしかないのだから。

 

2016年 ダレル・ウィート「ドント・スクリーム」(82分)