なしのつぶて

本や映画についての個人的な感想、それに関する雑談を綴ります。

クリス・ルノー/ヤーロー・チーニー「ペット」

 

 ペット[AmazonDVDコレクション]

 今日の映画

クリス・ルノー 監督

ヤーロー・チーニー 監督

「ペット」

 

「ペット」は2016年に公開されたアメリカのアニメーション映画だ。イルミネーション・エンターテインメントが制作した、といってもピンとこないかもしれないが、アメリカのユニバーサル・スタジオの子会社だそうだ。

ミニオンシリーズは観たことがなくても毎日のようにCMで目にしている気がする。あのバナナ好きの黄色い謎の生命体を生み出した会社の作品となる。

 

 まず初めに、みなさんはペットを飼ったことがあるだろうか。もちろん「飼った」という言い方は悪いかもしれない。家族のようなもの、一緒に暮しているもの。そういう気持で接している人もたくさんいるだろう。

 残念ながら私は、一般的な動物を飼育した経験がない。田舎の娘ということもあり、経験と言ってもカエルやアゲハチョウ、カタツムリ、カナヘビを育てたことくらいだ。

 友人には、動物と暮らしている子が何人もいる。犬、猫、ハムスター、ハリネズミ、ウサギ、カメ、フクロウ。みんなそれぞれの暮らしに合わせて動物と暮らしているらしい。彼女たちはよく彼らの話をしてくれる。SNSなんかで写真を目にしたりもする。なるほど飼い主によく似るというのは的を射ているなと勝手に納得していることもある。

 そのペットたちを、彼女たちは本当に最後まで見届けるのだろうか。見届けることができるのだろうか。

そういった意味でも考えさせられる映画である。

 

 

 

 (私が観たのは字幕版のため声の雰囲気は少し変わるかもしれないが)

 主人公の犬はマックス。飼い主と幸せに暮らしている小型犬だ。だがある日、飼い主が保健所から大きな犬を連れてくる。犬はデュークと名付けられ、仲良くするように言われるがマックスにはこれまで守ってきた自分の居場所というプライドがある。デュークを追い出そうとしたことでマックスも、そしてデュークも「ペット」という立ち位置を失いそうになるが、様々な動物たちが協力してみんなそれぞれの飼い主のところに帰る、といった話だ。

 

この映画は、ペットvs捨てられた元ペットたち であり、人間以外の生き物vs人間 の戦いでもある。そして、そこには人間に飼育される立場になった動物たちの切実な気持ちがあるのだと思う。ペットとしての宿命、帰る家があるものとないものの違い。動物と暮らしたことがある方も、動物と暮らしたことがない方も、たくさんの視点から観ることのできる映画だ。

 正直、テレビCMで流れていた、飼い主がいない間のペットはこんなことをしているのかもしれないよ! という想像の世界だけではなかった。これは飼い主と忠実なペットたちの物語ではなく、もっと壮大な、動物たちの大冒険の物語だ。

 動物の大冒険といえばピクサーの制作した「ファインディング・ニモ」を思い浮かべる。しかし、思ったよりも比較はしなかった。「ペット」には「ペット」の良さがあったということだ。映画が成功した理由はこれではないだろうか。

 

 突然だが、私は一人暮らしで、田舎でも都会でも捨て猫を見たことがない。

 小学校の同級生には公園で子猫を拾った女の子がいたが、動物が段ボールに入って捨てられているなんて都市伝説ではないのか? と思っているくらい、あまり野良の動物に馴染みがなかった。

 最近になればあの子は野良だ、この子は飼い主がいるんだろう、この子は迷子かもしれない、と見分けがつくようになったが、そもそも近隣をひとりで歩いている動物が野良かそうでないかなど、あまり気にしたことがなかったのだ。

 首輪がなければもちろん保健所に連れて行かれるし、殺処分される。近頃ではSNSで動物の引き取り手を探して、殺処分を回避しようとする行動もある。

 ときどき、ニュースを見ていて考える。数年前、農場から脱走したシマウマがいた。麻酔に失敗して、捕獲と同時に溺死が確認された。最近でも、クマが民家にあがりこんでいて、麻酔で捕獲したのちに殺処分された。人間は、思ったよりも動物を処分することに容赦がない。捨てることもきっと簡単にできるのだろうし、自分より脆弱な生き物だからと痛めつけることも簡単にできるのだ。

 自然災害があったとき、皆口々に言っていた。

 「命があってよかったね」

 その通りだと思う。家族みんなで生き延びたことは本当によかったと思う。だが、その命の陰で犠牲にしたもののことはどう考えていたのだろう。山に置いて行かれた犬たちは野生化した。鎖につながれたまま置いて行かれた犬は為すすべもなく餓死した。野良という生き物は見つかれば保健所が捕まえて、引き取り手がなければ殺処分される。動物の命はやはり人間よりも下等だとどこかで扱われているのだ。もちろん、クマのように人間の命を脅かすものもいるため一概には言えないのだが。

 

 動物たちにも意志がある。それは人間には聞こえないけれど、確かにお互いを思いやって、そうして飼い主を愛しているという強い意志である。飽きたら捨てよう、なんて簡単に考えられるほど弱い生き物ではないことを覚えておいた方がいい。

 これは余談だが、中国の神話に麒麟というものがいる。穏やかで美しい霊獣であるが、殺生を嫌う。殺生をするものは、麒麟の逆鱗に触れるそうだ。

 どうか、最後まで責任を持って共に暮らしてほしいものである。カメに至っても、きちんと娘や孫に世話を引き継いでほしい。池でカメの共食いを見たことがある身としては切実な願いだ。

 

 最後になるが、恋する女(雌)は強い、ということだけ書いておきたい。普段は室内で可愛がられ、昼のテレビドラマを眺めるだけの生活をしていた小さな女の子がいざとなったら一番に立ち上がり、野良猫に強烈なタックルをかまして啖呵を切り、何度も引っ叩き、無双ゲームのように動物たちをなぎ倒していく姿は圧巻だった。

 起きあがろうとする敵にさらに追い打ちをかけ「寝てな!」なんて、一度は言ってみたいセリフである。 

 

 

 クリス・ルノー/ヤーロー・チーニー「ペット」(90分)はイルミネーション・エンターテインメントの制作です。